本稿では、大学の経済学部を卒業した筆者が、経済学部で実際に学んだ感想を述べます。経済学部では何が学べるのか、経済学を学ぶと何に活かせるのかといった視点を提供します。大学受験生やこれから経済学を学ぼうとしている人には、本稿の内容を踏まえて経済学を学ぶかどうか決めてほしいと思います。
また、本稿では経済学を効率的に学ぶための参考書や勉強法をご紹介します。
スポンサーリンク
経済学では、多種多様な分野を学ぶことが出来る
経済学で学べることは、消費や金融市場、為替市場、貿易、マクロ・ミクロの政策、企業行動、家計行動、統計調査など、一般的に言われる「経済」という言葉から連想できるものの大部分です。大学の経済学部では、1・2年次でこれらを幅広く学び、3年次からは専門分野に特化して勉学に励むというのが一般的に思われます。
つまり、一概に経済学と言ってもその範囲はとても広く、分野ごとに学問が分かれるのが経済学となります。実際に、経済学が扱う分野は、マクロ経済学やミクロ経済学を初めとして、細かい分類では産業組織論、計量経済学(≒統計学)、金融経済学、ゲーム理論、行動経済学など、多岐に渡ります。
〇〇経済学のような学問が多いため、経済学は「経済学×〇〇」のようにイメージしてもらうのが分かりやすいと思います。つまり、基本となる経済学のツールを用いて既存の学問分野を研究し、政策の評価や他分野に応用していくという発想です。
ここでいう基本的なツールになるのが、マクロ経済学とミクロ経済学です。経済学の大部分は、この2つの基本的なツールをベースに成り立っています。マクロ経済学とミクロ経済学の知見を拡張し、他分野と合わせたものが○○経済学という訳です。
マクロ経済学では、「国」や「政府」、「地域」などの広範囲に視点を合わせます。具体的には、GDPや消費者物価指数、インフレ率などの指標を用いて、政府の財政政策や金融政策、成長政策を評価します。対象が広いため、コンサルティング会社で政策評価のために使われたりします。
これに対し、ミクロ経済学では企業行動に焦点を当てて、小さい単位から経済全体の動きを分析します。ミクロ経済学の発想では、1企業がある行動を行い、それに対してライバル企業が反応して、その結果として自由競争が生まれるのか、独占市場が生まれるのか、といったことを分析するのです。
2つの分野に共通するのは、いずれも経済全体の動向を分析している点です。その違いは視点をどこに置くかにあり、マクロ経済学では広範囲から、ミクロ経済学では小単位からこれを分析します。上から下への流れか、下から上への流れか、という風にイメージすると分かりやすいはずです。
経済学を身に付けると、日々のニュースを理解しやすくなる
経済学を学ぶと、一般的には各種の政策の評価が適切に行えるようになり、金融経済のニュースが頭に入ってくるようになる、と言われています。筆者もこの意見には賛同しており、確かに経済学を学ぶとこれらのニュースを自分で判断できるようになります。
具体的に、以前よりも理解出来るようになるニュースは次のようなものです。
- 「今日の日経平均はいくらで…」
- 「本日は円高になりました」
- 「政府が消費税を10%へ上げることが決定しました」
- 「日銀が長期国債の買い入れを行います」
- 「回帰分析を行うと回帰係数は○○で…」
このように、日経新聞や東洋経済で見るようなキーワードについて、経済理論からそのニュースを評価できるようになります。ただし、これらのニュースを正しく判断できるまでには、かなりの勉強をする必要があります。経済学では幅広い分野を浅く学んでいくために、ある分野を専門的に学ばないと、深い知見を得ることは難しいでしょう。
他にも経済学を学ぶメリットは存在します。
その代表例が、計量経済学です。計量経済学は、統計学と経済理論を合わせて政策の評価を行う学問です。具体的なデータに基づいている点で、従来の理論的な経済学よりも、実証的に分析を行うことを可能にしています。筆者は学部時代に計量経済学を専攻したため、いわゆるデータ分析がある程度出来るようになりました。
現在、データ分析の需要が高まっています。AIや機械学習といった手法が注目されがちであるものの、これらの多くは古典的な統計学の理論に基づいているものも多く、データ分析を行う上では統計学の学習を避けては通れません。その意味では、経済学と流行りの統計学を一緒に学べるので、計量経済学を学ぶ意味は大きいでしょう。
経済学を学ぶのにおすすめの参考書はこれ
ここからは、学習レベルと分野別におすすめの参考書を紹介していきます。
step
1経済学全体を広く知る参考書
初心者におすすめなのが、この本です。初心者が経済学を学ぶ際に一番の壁となるのは、仕事の都合等で勉強の継続が出来ないことです。その点、この本は他の本よりも薄くまとまっており、経済学の全体像を学ぶのに適している本です。まずはこの本で経済学の概要を掴み、その後でより専門的な内容に進むことをおすすめします。
経済学の分野は横に繋がっているため、ある分野が分からないと別の分野に支障をきたす場合があります。特に、マクロ経済学やミクロ経済学といった大きな分野はその一例です。したがって、最初は〇〇経済学にこだわるよりも、全体像を掴んだ方が学習を効率的に進められます。
あまり内容が薄いとやりがいがないと感じる方には、こちらのマンキュー本がおすすめです。上記で紹介したものよりも多少分厚くはなるものの、これ一冊で経済学の概要をきちんと押さえられる構成になっています。内容面では、マクロ・ミクロだけではなく、雇用や税政策、為替市場についての記述も存在しています。
マンキュー先生の入門本は、ハーバード大学やシカゴ大学のエリート候補生も用いるような定番本であり、世界的にも経済学の入門書と言えば、マンキューと言われるほどのクオリティです。こちらはその日本語翻訳版になります。
step
2マクロ経済学とミクロ経済学の参考書
経済学の概要を掴んだ後で、マクロ経済学とミクロ経済学という2大巨頭を勉強します。この2つの理論をマスターすれば、一応は経済学を学んだと言えるレベルに到達します。マクロとミクロはどちらから手を付けても構いません。自分が小さい単位に関心を持てば、ミクロ経済学、大きい単位に関心を持てばマクロ経済学を学ぶのが良いでしょう。
ミクロ経済学の入門書にも、マンキュー先生のものをお勧めしておきます。入門本と繋がりがあるために、初学者にとっては分かりやすい構成になっているはずです。
ミクロ経済学の基礎の基礎である、需要曲線と供給曲線や、市場競争のメカニズムや消費者行動論、ゲーム理論、さらには情報経済学や行動経済学といった先端の分野まで、幅広い分野をカバーしている入門書です。特に、行動経済学を学ぶと心理的側面から消費者行動を分析できるため、日常生活にも応用することが出来ます。
こちらはマクロ経済学のバージョンです。ミクロ経済学よりは多少難しいのがマクロ経済学ですが、それでも初学者が学びやすいように構成されています。マクロ経済学編を学び終えると、政府の政策を正しく評価することが可能になります。
ただし、古典的なマクロ経済学が通用しない事例も散見されるため、現実への応用を目指すなら、この後に紹介する専門分野を学ぶ必要があります。
step
3専門分野の参考書
まずは、計量経済学の入門本です。計量経済学では統計学を用いるため、学生の論文執筆やビジネスにおいて、すぐに使用することが可能になります。計量経済学を学ぶと、データ分析から様々なビジネスへの応用が可能になります。
この入門本は、理論を覚えるよりも読者が実践することに重きを置いています。実際に手を動かしながら分析することで、分析の手法が徐々に身に付いていくという訳です。統計分野ではこの「手を動かす」という作業が重要になるため、ここでは実践を重視した本を紹介しました。
基本的な計量経済学の概念に加え、分析結果の読み取り方なども詳しく解説しているため、おすすめの入門本と言えます。
計量経済学の次におすすめの分野が、相手の行動に対してどう反応するかというゲーム理論の分野です。ゲーム理論では、最初は2人のプレイヤーの動きを分析し、互いにどう行動するのが最適なのかを導き出します。
これは、実際の企業行動に当てはめることが出来るため、多くの学問でゲーム理論の考えが取り入れられています。ゲーム理論のベースを作った人物は、ノーベル賞を受賞しているほどです。
このゼミナールゲーム理論入門では、ゲーム理論を学ぶのに必要な概念が網羅されています。多少分厚いのがネックであるものの、これを1冊学ぶことで、企業行動を詳しく分析する能力が手に入ります。
本稿では専門分野の最後として、行動経済学の入門本を上げておきます。行動経済学は、従来の古典的な経済理論に心理学を取り入れた学問です。古典的な経済学では、人が超合理的な人間であるという非常に強い仮定を置いています。
しかし、現実では人は非合理的な行動をしてばかりです。つまり、古典的な経済理論では説明しきれない部分を、心理学を用いて解き明かそうとするのが行動経済学です。行動経済学は、従来の経済理論をすべて覆していくような内容になっており、先端的な分野と言えます。
行動経済学を学ぶと、マーケティング面での活躍が期待できるはずです。消費者心理と経済行動を学ぶことで、どういった施策を打てば消費者が反応しやすくなるのかが分かるためです。
本書は、行動経済学の初めの一歩にふさわしい、初学者向けの内容になっています。研究者でなくとも簡単に読める内容になっていることに加えて、行動経済学の主要な分野を押さえています。したがって、行動経済学を学ぶのに適した入門本であると言えるでしょう。